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総動員帝國

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L・ヤング 岩波書店


満洲事変以来、日本国民は挙げて大陸侵攻に熱狂した。事変の翌年作られた満洲国は日本帝國の心臓部に結合され、日本の人格・物的・文化的資源を総動員していく。この新しい段階に入った大日本帝国の成立から崩壊までの全史を、広範な資料を自在に使い切って描き切った、壮大な歴史序説
アイコン 加藤陽子:訳者あとがきhttp://www4.ocn.ne.jp/~aninoji/
  「帝国主義」と「帝国」の定義:  この場合の「帝国主義」とは、公式・非公式ふたつの植民地統治方式による、日本の中国への影響力行使の過程を意味する。
日本は中国に対し、関東庁や満洲国など公式の植民地統治機関を通じた支配だけでなく、軍事的圧力・市場支配・親日派現地エリートの育成など、非公式な手段による社会への支配をも及ぼそうとした。
よって「帝国主義」は、公式支配だけを意味する植民地主義よりも広い概念であり、それを包含するものになっている。

 では「帝国」とはなにか。「帝国主義」が影響力行使のための機構を建設する過程を指すとすれば、「帝国」とはその結果であり、建設された支配機構を意味する。支配機構に重点を置いてみているので、「帝国」には、
@被支配地に作られた支配機構を指す場合、
Aそれに対応して本国に作られた支配機構を指す場合、
B出先と本国を結ぶネットワークとしての支配機構全体を指す場合の、
少なくとも三とおりの意味がある。

本書を読まれる際には「帝国」がなにを指しているのか、よく注意しつつ読みすすめていただきたい。  以上を前提にしたうえで、国民の心からの支持を動員してやまない国民国家の近代性が「帝国」に加えられたとすれば、どうなるか。

その結果生み出されものの究極の形態が「総動員帝国」ということになる。「帝国」建設のために、文化的・軍事的・政治的・経済的に本国の国民を、心からの熱中をともないつつ動員してやまないもの、それが「総動員帝国」と定義づけられるものであり、日本にとっては、満洲国が「総動員帝国」と位置づけられる。  

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第一部 総動員帝國の形成
  第一章満洲国と日本

「軍事的制圧・経済開発・大規模開拓移民送出」
「日本の生命線‘満蒙”」
「@満洲での国家機構・経済の支配機構・社会的支配メカニズムの形成とA満洲の制度と対応する帝国的プロジェクト成功への資源動員への政治的社会的メカニズムの形成」
*帝國研究の現状
*総動員帝國主義
*満洲国と日本

「植民地と本国の‘くもの巣”状メカニズム」
*帝國の様々な主体
*文化と帝国主義
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第二部 満洲事変と新しい軍事帝國主義1931-1933

  第二章戦争熱
--帝國の好戦的愛国主義とマスメディア--

*生命線満蒙を守れ
「生命線」松岡洋右が作り出す:1931/1帝國議会演説
「十万の英霊」日本は日清・日露の両戦役で十万の生霊を満洲の野に埋め、数十億の費用を投じ、国の危険をおかして今日の満洲の権益を獲たのである。全く日本民族の尊い血と汗の結晶に他ならない(しかし、実際は「戦争の原因は朝鮮支配をめぐるもので、戦勝の結果、朝鮮という植民地を獲得した)
「帝國の過去に対する公の記憶を効果的にかきたて、同時に現在の刑事的不安定さに効果的で、血の恩義と犠牲の喚起で、過去と現在を帝國の有機的定義を結び付けた。満洲-- 帝國の辺境が新たなイデオロギーの再活性化に
「満洲の蔵する資源」
居留民の生命を守り、中国軍閥の過酷な支配で搾取されている中国人を守れ。
「日本産業発展の新天地」
「世界大豆生産の約6割を占め」

*臆病な中国人と弱いものいじめの西洋人
1930年代の帝國の言説
人種的恐怖、人種的憎悪「われわれは中国人より優れ、西洋人を恐れない」「中国人が生命線満蒙を奪おうとしている」
中国兵の自発的撤退や武装解除という非抵抗を
「敵は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っております」敵は無法者で「泥棒・犯罪」(反日義兵闘争1907-1909)「無法分子」(1919-3-1)「馬賊・便衣隊」「兵賊」「匪賊」(1931)
「買収と寝返りの中国軍閥」戦争熱の文脈での中国の国民性への、日本人の「中国の国民性」の作り変え〜高成長の人種主義
「急速な帝国主義」

*英雄的な自己
戦場への美談@死への熱中A国家への犠牲の個人主義、競争主義的側面
美談ブーム

第三章急速な帝国主義
--エリート政治と大衆動員--

*政治的戦場

陸軍のプロパガンダと「世論」の形成
「国防思想普及運動」「満蒙問題」

*満洲事変公式のストーリー
反日運動〜「挑戦・侮辱・迫害と自衛・掃討・駆逐」日本国民は被害者である
「匪賊はすべて兵士であり、兵士はすべて匪賊である」「張学良は満洲各地で治安擾乱を策動し」満洲の「掃討・鎮撫・討伐」
さらに、中国は満洲を奪う計画を立てているので、長城線から熱河へ〜国民党の陰謀の(被害者と加害者の逆転の)ストーリー

「日支への西洋帝国主義の干渉」「東亞に侵略の魔手を伸ばす白禍の東漸に警戒しなくてはならない」「白人万能の旧時代はいまや終わりを告げて、皇国日本を軸心とした世界道義時代」

*国際連盟における日本の主張
(白人帝国主義の応援と)「(中国の一方的な)条約破棄、排外的扇動、張学良の破壊工作」
「(中国の行政が)適切、組織的、有効な政府でなく、国家的保護を与える必要はなく」極東平和霍乱の原因たる中国」
(法を遵守し、誠実で決然とした日本に)「(満蒙の権益は)日本の生存に不可欠である)
リットン調査団
満洲国政府は、民族独立運動ではなく日本の後援による所産であり、新政府を創設し、地域の非武装化と多国間会議の開催の勧告

@西洋の帝国主義の連合への対決というストーリーのもたらした協調外交の終焉Aアジアナショナリズム対日本の植民地権益防衛への武力行使B国際世論と日本の国民世論への宣言:敵対的な世界での孤立と満蒙の生命線への軍事対決

*地方における帝國
国民構造、多元的にアイデンテイティを刺激した全国的な「国民的決意・自然の流露・地方」の戦争支援運動
「あの憎い支那兵を、、必ず討ってください」爆弾三勇士森下上等兵の母(山梨日日新聞)慰問運動
慰問運動・献金運動

*労働者・女性・帝國
1928/3/15日本共産党一万二千人の大検挙
1932/10日本共産党一万二千人の大検挙

*他人の身を通じての帝國主義


「今日我々が民族主体性の発展をつき固める十月維新の決断下、維新課業を推進する場で忠武公(李瞬臣将軍)精神を再考するとき、その精神こそまさに維新離縁と直結を一層悟らざるを得ない。
忠武公精神の救国精神、護国精神、滅私奉公精神。自主・自助・創意・開拓・愛民奉仕精神など一連の精神姿勢こそ、我々が民族の自存・自立・自衛・自決・自栄を期す十月精神そのものである。

そして、我々は「国」と「自分」が別個でなく、国がうまくいけば自分もいい暮らしができ、国が富強ならば自分も裕福であり、国が栄光にあれば自分も栄光を享受できるという透徹した国家観を確立していかなければならないだ
ろう」
朴正煕「維新理念と忠武公精神」1973/4
古田博司訳
十月維新:1972/10/17非常戒厳令、国会解散、大学休校。11/21憲法改正国民投票、大統領緊急措置〜維新憲法。


ここでは、「統制経済」と「開発独裁」を語ろう。
冷戦下に、このような、どのようにみても日本的言辞でしかない満洲士官学校金時計組〜 陸軍士官学校出身の朴正煕の民族的熱情 (民族主義)の奇妙な主張があった。また「援助」という名のマネーロンダリングが軍事政権とシステム化され、経済開発特区が設けられた。
この構図は、軍事独裁体制にあった韓国、台湾、フィリピン、インドネシア、ベトナムで同時的に育成された歴史的な存在であった。
かの「キーセン外交」
「ウォーカーヒルの鉄火場」は、このような軍事政権下で保護され了解され、多くの日本人が通うところとなった。


軍事政権に守られたエコノミックアニマル、イエローモンキーニッポンの姿が、台湾で、マルコスのフィリピンであり、スカルノースハルトのインドネシアで、また戦時下のベトナムで見られた。日本航空のJALパックがヤルパックと揶揄された時代である

もちろん、戦前と違ってバックにあったのは世界最強のアメリカ帝国主義であり、これによって、アジアナショナリズムとの軍事的対決は支られていた。平和裏に進駐された日本と違い、他国では米国は買弁政権の育成と民族主義勢力(共産主義勢力)実力弾圧を強力に推し進めた。朝鮮、中国、フィリピン、、、中国革命の現実を前に、続けられた血の虐殺は、周知のことである。

旧日帝時代からの縁戚を誇示した 朴正煕政権や台湾の国民党政権、ビルマ軍事政権との隠微な関係は、日本外交〜日本商社にとって特別なものとして実感されたものであった。 とりわけ、日本敗戦後にも国民党政権といち早く連絡を取り合い反共軍として大陸に残った日本陸軍China handと蒋介石との戦前からの関係など想像を絶する世界であろう。
アメリカが勝利できなかった戦争=朝鮮戦争と中華人民共和国の成立が、軍事政権に、自動的に流れ込むドルをもたらした。


そのとき、戦後の「朝鮮特需」「賠償」による東南アジアへの再侵略をテーマとした日本の新官僚の満洲以来の系譜(大平が熱河の阿片担当職員であったことは有名な事実であるが)が 日本側で理解変容された歴史を記さなくてはならない。

国内向けの「平和と民主主義」と微妙に重なりながらも軍隊は持たずとも米軍の軍事力と独裁軍事政権のパワーを背景にした外交と商社のエコノミック・アニマル能力が発揮されたのである。 「満州の夢」〜それは、現在につながっている。

「帝国主義」の荒っぽい稼ぎを半世紀にわたって良く知っていた日本外交〜日本商社の行動には、戦前の買弁政権育成の大日本帝國の蓄積によるものが大であった。
ベトナム戦争後のアメリカの後退につけこんだ日本商社は、戦後の最良の時期「 」という現実を生み出した。
このイエローモンキーのイデオロギーは、(戦前の亜細亜主義の亜種)同様なアメリカ帝国主義の買弁として 戦前から連続して発展した日本帝国主義としてアジアから認知されていったのである。

ここでは輻輳したストーリーの流れを述べている

しかし、20世紀後半には、これらは世界資 本市場による攻撃(亜細亜経済危機)によって崩壊し、また諸国民の民主 化によって、歴史的に過去のものになってしまった。
おおかれ少なかれ、亜細亜のナショナリズムが地に付いたも のとして「開発独裁」を捨てる時点で、この満洲国〜大日本帝国のストーリ ーは完全に古めかしいものとなってしまった

しかし多かれ少なかれ、この大日本帝國の物語が、1945年まで

@「旧植民地」「旧軍政地」に作られた現在の支配機構を指す場合、
Aそれに対応して本国に作られた支配機構を指す場合、
B出先と本国を結ぶネットワークとしての支配機構全体を指す場合の、
少なくとも三とおりの意味がある。(本書より)

しかし、それは、1945年から現在までの国内にあっては、
@(戦後主義を反映せず)軍事政権下との野合機構を指す場合
Aそれに対応して本国に作られた支配機構を指す場合
B出先と本国を結ぶネットワークとしての(美しく飾られた)支配機構全体を指す場合の、
少なくとも三とおりの意味がある
別なストーリーとして (実際は同時代であるのだが)成長していった系譜としてみていく必要があるのである。

急激な経済悪化と数十年の「焼畑型日本ライフスタイル」は、いずれにしても国家による救済と海 外への過剰な関心を引きずり出すだろ。
世界最強の帝国ですら、その維持の普遍性を国内ですら持ちきれない時代に、、ストーリーつくりが、、



アイコン 第三部満洲の実験と植民地開発1932-1941

第四章不安定な提携
--植民地経済をめぐる軍人と実業家--

*1932-33の実業界のイニシアティブ
*陸軍からの曖昧なシグナル
*経済開発を巡る意見の対立
*帝国主義的コーポラティズムと円ブロック
*国家資本主義のなかの共同作業

1930年代末の悪性インフレと計画経済〜総動員統制経済〜楽観主義を支える「満洲国の成功物語」

*満洲の青写真の東アジアへの適用
「日満ブロック」から「大陸経営」「東亞共同体」「日満支ブロック経済」
「統制経済」「通商ブロック」〜保証された輸出市場と天然資源。満洲国で開発された経済の国家経営戦略が、中国の全土に傀儡政権を作り、日本にとって重要な産業の経済開発を計画・規制する。

「昭和研究会」笠信太郎・尾崎秀実・高橋亀吉「左翼政治に一度はかぶれた」@中国ナショナリズム「支那民族自体の積極的協力」へ「(日本の)本来の帝国主義的要求の放棄」「日本との一体による東亞の経済的統一」「中国〜日本の土地改革」「日中共同開発のための中国資本の開発」A「日本経済の再編成」(笠1939)産業の国有化・・統制経済論・新経済パラダイムB満洲の青写真〜大陸の軍事追及だけでなく、内在的論理は、(満洲国での成功の)開発の病理

*1940-41の実業界のイニシアティブ
@東亞ブロックのための欧米資本市場からの投資と製品の輸入の相互依存構造
A大陸再開発計画への希求

第五章すばらしい帝國
--ユートピアと知識人--

*未来都市
*機会に満ちた都市
*満洲旅行ブーム
*抑圧・動員・チャイナハンド

*革命国家としての満洲国

日本の長いアジア主義の歴史と大陸浪人
「黄色人種に課せられた責務」
「1930年代の革命的帝国主義」

*左翼と帝國の社会的実験場
「ラディカルな社会変革や実験を行なう場、可能性の場としての植民地」「二十世紀の文明化の使徒」〜帝國の裏側
アイコン 第四部新しい社会帝国主義と農業開拓移民1932-1945

第六章再発明された農本主義
--農村危機と帝國への農業の結合--

*移民と拡張主義
*農村問題に対する満洲からの解決方法
*日本のなかの帝国主義的農本主義

「帝國が視野にはいることによって、社会改革を要求する理念や理論の再編」
「農村問題を解決する糸口としての満洲導入で、
*満洲のなかの帝国主義的農本主義

社会工学〜内地での農村更生イメージと満洲での自給自足幻想
「標準案」自作農、自給自足、農牧混合、共同経営

現実は、満洲には自由競争的な経済体制があり、中国人農民は日本人農民より低水準で生活し、低価格で農産物を提供していた。自給自足と共同経営(農耕機械の不足の現実)の大規模農業の幻想は、中国人の農作業への雇用や小作人を使っての商業作物生産という資本の運動となった開拓民は中国人の市場で勝利できるのか?

社会帝国主義下での農本主義の再編
@満洲移民と農本主義の収斂
A満洲移民による農本主義の再編、帝國主義との結合〜満洲での中農幻想の現実化
B地主と小作の対立の緩和。困窮の満洲への輸出
C近代を悪とした農本主義から帝國による農村の近代化、社会安定の農本主義へ

第七章移民送出の推進装置
--満洲開拓と国家の領域の膨張
*帝國の官僚制

*人種的な拡張主義

「民族的使命」
「日本が生んだ兄弟国」
「大和民族を中核とする世界政策の検討」
「開拓魂」
青少年義勇軍の歌
若い命の僕たちは
土と日本の前衛だ
炎と燃える感激に
鍬を担って来たからは
きっと拓くぞ大満洲
*草の根の帝国主義

*英雄視された満洲開拓
和田伝「大日向村」1939
*暴走する推進装置

第八章帝國の犠牲者
*帝國の特権
*帝國の犠牲者
アイコン 第五部結論

第九章総動員帝國の逆説
*満洲国が日本に残した刻印
1930年代の景観としての満洲国
@マスメディアと
大衆文化〜戦争への熱狂、好戦的愛国主義〜
中流幻想、経済発展の夢。
A日本の政治組織。満蒙利益集団と陸軍。陸軍の愛国銃後運動・愛国的労働運動・愛国的婦人運動の愛国利益集団化〜大衆組織の利益集団としての成長の刺激〜総動員帝國・大衆政治・大衆社会の制度的回路
B資本主義の危機への陸軍と財閥の間の連合〜利害の一致の抱合
C帝國建設の夢物語への理想主義的な最新型
〜大衆社会や大衆政治時代での帝國の物語
D満蒙の社会帝国主義を支える(古めかしく再生した)農本主義
E植民地と本国の国家官僚〜統制経済を支える経済統制、産業統制、「検閲制度と双生児の」国家情報宣伝機構、新官僚

*いくつもの満洲国
日本人は、多元性、矛盾に満ちた「原理は同じであるが、その解釈はさまざまな大衆に散布されたイメージを、個人的な野心を、それを超えた国家のイメージに公的に結び付け、、、」
*漸増する帝国主義
*近代性と総動員帝國への方向転換


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